掟ポルシェさん(ミュージシャン) 小太りじゃあね、モテるわけねぇんだよ 一時、俺にとって理想の体型の持ち主はダチョウ倶楽部の上島竜兵だった。子供の 頃から何の運動もしていないのに筋肉質で生まれつき腹筋がボコボコに割れていた俺が、意識的にポッテリしたくてしょうがなくなったのは、俺自身の「脱ぎ癖」に起因するものだったのである。 「チャラチャラ出来んのは若者の特権だと思うよ。でも東京でフリーターしてるなんていうのは田舎に帰ればゴミ同然だって。 親孝行したいときには親は無し……故郷のおふくろさんもさぁ、お前の為を思って正社員になれって口酸っぱくして言ってくれてんだからさぁ。わかってやれよ」 と、親身になったアツイ台詞をあえてすっぱだかで発してみる。全裸による説得力の破壊具合著しくこれで爆笑間違いなし! と思ったら、意外にみんなしんみり聞き入ってしまっている。おい、俺は今真面目な話をしているとはいえチンポぶらんぶらんしながら会話してんだぞ。チンポぶらりながらの話を真摯に受け止めてどうすんだお前ら。 頼むから笑ってくれよ! 「クスッ」でいいんだよ、「クスッ」で! 残された手段はこのまま生まれたままの姿で会計を済ませ、電車に乗って家まで全裸帰宅、これしか道は残されていない。JR浅●橋の改札を全裸のままスルーし、さりげなくシルバー シートに全裸で寝そべりVサイン。ともに帰路につくバイト仲間もさすがにこれで大笑いドッカーン! ……だろうと思ったが、今度は素直に他人のふり。周りの乗客も出来るだけ俺と目を合わせないようにしてドン引きだ。わからない……笑いというも のがわからない……。ダダすべりの迷宮に迷い込んでしまった俺はすっかり自分を見 失い、必死に「ボク達こんな人知りません」な雰囲気を全身で表現しようとしているバイト仲間に詰め寄った。ちょっとは笑えよこの野郎! サービス程度でいいんだよ! 目を充血させながらありったけの主張をすると、返ってきた答えは予想だにしないものだった。「●●さん(俺の本名)の体、筋肉がムキムキで生々しすぎて笑えないんですよ」と……。生来の筋肉質に加えてその頃の俺はヒマツブシに腕立て伏せ腹筋ヒンズースクワットを毎日各100回ずつこなしていたため、獣神サンダーライガー並みにマッチョパンプになっていた。ステロイドもなしにそんなジュニアヘビーな筋肉をくっつけていた俺の裸体は、「全裸=滑稽」という図式の枠からハミ出し、「全裸=ホモくささ全開の肉体」のジャンルに知らず知らずのうちに入り込んでしまっていたのである。面白いつもりがどうやらただのマチズモホモの筋肉自慢にしか見えなかったようだ。俺を仲間と誤解したヒゲマッチョのラガーメンが俺の耳元で『メリー・ ジェーン』を熱い吐息まじりに歌い出されても困る。ホモにモテモテにモテても迷惑以外の何者でもない。生まれつき筋肉質であると同時に生まれつきウンコも細いんである。 ノンケである事を主張するため、そして全裸で笑いを取るため、俺の小太り修行が始まった。素っ裸が似合うNo1・ダチョウの竜ちゃんのポッテリ体型になりたくて、フォアグラを丸かじりしながら甘〜いジュースを飲んで万年床の上で一日中ダラダラ して過ごし、出来るだけ怠惰な生活を心懸けた。するとみるみるうちに脇腹回りに余分な脂肪が付きだし腹筋の割れも消失、いよいよ滑稽なカンジになってきた。よ〜し、 これで大爆笑間違いなし! ロマンポルシェ。といえば全裸でおなじみ。ステージに出ていく際にはまず全裸で登場し、一曲歌い終わる毎に一枚ずつ服を着ていく『イエローキャブ方式』を採用。 客席は俺がだらしない全裸姿で唄い舞い踊る姿を見てどっかんどっかん沸いた。やっ た! おれはついに理想のだらしな体型を手に入れ理想の笑いを手中にしたぞ! バンザ〜イ!! ……しかし、俺は腹回りの肉を手に入れると同時に重大なものを失った。ポッテリしだしてからというもの、パッタリ女にモテなくなってきたのである。全裸芸は「笑わせる」ものではなく「笑われる」ものだと気付くのが遅かった……。小太りじゃあね、モテるわけねぇんだよ! みなさんも「女にモテる」という、何ものにも代え難い究極の理想だけを目標にしてダイエット頑張ってください! あ〜、イタズラにだらしない体になんてなるもんじゃなかった……。 正に全身全霊で”受け”に挑む掟さんの姿勢に男気を感じます。普通の人々とは逆に望んでマッチョからデブになってみるというのも、ロバート・デ・ニーロが映画の役のために体重を増やすが如き偉大な行為です。しかしその結果 モテないというのも世の中恐ろしいものです。デブ専の女なんてめったにいないのです。かく言う事務局長の私も掟さんの壮大な実験とも言える「小太り修行」を地で行く生活に長年、精を出しております。もちろんモテません。さぁ我々もこれから、だらしない体に別れを告げ、ダイエットに励みましょう。掟さん!貴重な体験談ごっつあんです。ありがとうございました! |